165人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
母親はとりあえず起きたことを確認すると部屋から去っていった。
「いるではないか。佳乃(ヨシノ)はどうするつもりだ」
「俺がいくつだと思ってるんだよ。佳乃もいい歳になって何処かに嫁いでるんだろ」
「…私、いますけど?」
唐突に部屋の外から顔を出したのは、佳乃だった。
「なんでいるんだ、佳乃!」
「ここで、女中してます」
「なんで許嫁のはずのやつが、女中してんだ。何やらせてる、おかしいだろ」
訳のわからないことがまた始まった。
許嫁相手がいなくなってたわけだから、解消されたはずだろ。何故、いる必要のない家にわざわざいるのだ。
……まさか、俺のせいで縛られているんじゃ…
結城が頭の中でぐるぐると思考を巡らせ、怖い顔で固まっている。
「…孝治様、もうよろしいのではないですか?佳乃はこれ以上耐えられません」
呆れた様子で佳乃が孝治に向けて言った。
“耐える“……?
結城が問いただそうとした刹那、
「はっはっは!」
孝治が盛大に笑った。
「何がおかしい!!」
「泰遥、佳乃は私の妻だ」
「……………」
今度こそ結城の思考が停止した。
「変わらないな、実にからかいがいのあるやつだ」
「っ……、だからてめぇは昔から嫌いなんだ!!」
「泰遥様、抑えてくださいませ。泰遥様が佳乃に見向きもしないで、道場へ通い、あまつさえ上洛なさって途方に暮れておりました。そこで、孝治様に見初められ晴れて夫婦となりました。女中ではありません。
孝治様の悪戯は昔からですが、泰遥様がとやかく言うところではございません」
ぐぅの音も出ない…とはこの事か。
久方振りに再会した佳乃に、蔑ろにされた恨み辛みの籠った言葉を投げ掛けられ己の浅はかさを突きつけられた結城であった。
最初のコメントを投稿しよう!