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「…それでは…お先に失礼します」
ビクビクとした態度は、社長じゃなくてもきっと変に思うはず。
それくらい、私は挙動不審だった。
「…あぁ。」
残業はないと言った言葉は本当だったようで、社長室のドアを開けると、社長がホルダーに掛けてあるジャケットを羽織っているところだった。
いそいそとエレベーターに向かい、1階へ降りる。
自動ドアを出たすぐの所に先輩は立っていた。
「よ、昨日ぶり。何も連絡よこしてこなかったってことは、決断したみたいだな?杏奈」
勝ち誇ったような笑顔で、先輩が近付いてきた。
「…あの、先輩」
「ここまできといて『やっぱりやめます』はナシだぜ。タクシー待たせてあるんだ、乗れよ」
貼り付けたような笑みのまま、先輩は私の肩を力強く抱いた。その手に指輪が光るのが見えて、ハッとする。
「や、ちょっと話を…っ」
「話なら車の中ですればいいだろ?とにかく時間もないし、行くぞ」
先輩に半ば強制的に歩かされて、私は路肩に停まっていたタクシーに押しやられた。
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