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それから、「行くぞ」と言って歩き出した社長に連れられ、路駐していた車に乗り込んだ。
「バカか、お前は!!」
「!!」
バタンとドアが閉まった途端、大声で叱られる。
びっくりして運転席を見ると、見たこともない形相の社長が私を睨んでいた。
「何で黙ってた!お前、あのまま俺が来なかったら今頃連れ込まれてヤられてるところだぞ!!」
あまりの怒りように、肩が竦んでしまう。
「だ、だって…」
「だってもクソもあるか!つまんねえ罠に引っかかりやがって」
「私だって、まさか先輩が本気だとは思わなかったんです…っ」
「本気じゃなかったら何なんだよ。こんな所までわざわざタクシー使って来て、ホテルの前で『はいサヨナラ』なんて言う男がどこにいんだよ?」
「…それは…」
「お前のことだから自分のことは自分で何とかしようと思った、とかそういうのだろうけど」
「……」
「…今回お前が要求に応じてたところで、今度はそれをネタに脅されるだけだ。違うか?」
気付けば社長のトーンは、荒々しいものから柔らかいものへ変わっていた。
諭すようなその声色が私の耳から全身へ染み込んでいく。
それとともに沸いてくるのは安堵と恐怖で。
「ったく、こっちがどれだけ心配したと思ってんだ…泣くな」
私の目からは大粒の涙が溢れて止まらなくなっていた。
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