第一章 帰省

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「ふふっ。あんたがこの家を出た時と変わってないでしょ?いつ家に帰ってきてこの部屋を使うことになってもいいように掃除だけして、下手に模様替えとか家具の移動とかは一切してないのよ。那波がこの部屋をまた使う時に使い勝手がよくないとって思ってね?」 いつの間にか部屋の入口にいた母が自慢げに言った。 そんな母を見てクスッと笑いながら「ありがと」と言って、荷物を部屋の隅に置いた。 「で、どうしたの?ご飯の準備でもできてるの?」 頬笑みながら母に尋ねると、母は得意げにVサインで返してきた。 これも覚えている。 母は、何か終わった時には得意げにVサインをする。 私はクスッと笑いながら、母と共に部屋を出てリビングへ向かった。 「おっ!?那波、来たか。父さん、もう腹ペコだよ。早く食べよう。」 両親ともに陽気な性格なのも2年前となんら変わり無かった。 私もクスクス笑いながら「そうだね」と言いながら席についた。 「那波姉さん、一人暮らしってどんな感じ?俺、高校を出たら一人暮らししてみようと考えてるんだけど」 「遊也もこの家、出るつもりなの?」 弟に聞き返したのは母だった。 父も驚いてる様子なので、両親にはまだ話していなかったみたいだ。 「そうだね・・・一人暮らしはやっぱ何でも自分でやんなきゃ駄目だし、その分、勉強と両立は大変だよ?でも、なんでも自分の判断次第でチャレンジできるって考えれば楽しいかな?」 弟は何か考え事をしながら納得したかのように頷いていた。 そんな弟を見て、弟に一人暮らしというものがどういうことかちゃんと伝わっていればいいのだけどと願う私がいた。 父も母も弟の一人暮らしには反対する様子はなく、その後は家族団欒を楽しんだ。 部屋に戻ると、移動での疲れのせいかすぐに眠気が襲ってきた。 眠気に抵抗する気も起きず、そのままベッドに横になった。 『せっかく帰ってきたんだし、明日、あいつのとこに行ってみようかな・・・』 そんな事を考えながら、私は眠気で重たくなった瞼をゆっくりと降ろし、目を閉じた。
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