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かなり後向きな思考になってしまっているが、それでもあいつに会いに行かなければいけない。
それが私自身で決めたことであり、母との約束でもある。
準備を終えた私は「よしっ」と一度気合を入れ、部屋を出た。
リビングに出ると出かけるための準備を済ませた母と遊也が私を待っていた。
「準備できたみたいね?じゃあ、出かけましょうか。」
私と遊也は母に連れられて、家を出た。
激しく雨が降る中、私は母が運転する車の中から外を眺めていた。
家からあいつがいる場所まで車で走っても1時間半はかかる。
高校を卒業するまではバスを使って時々会いに行っていたが、大学に入って家を出てからは一度も行かなかった。
この町にさえ帰ろうとしなかったのだから、当然と言えば当然ではある。
「ねぇ、那波。あなたの想いを否定するわけではないけど、私からすれば真君が那波の事を恨んでるって言うのは、那波の思い込みだと思うわよ?真君、あなたにベタ惚れでいつも大切にしてくれてたんだから。」
母は、心配そうにでもどこか懐かしそうに私を気遣ってくれた。
「そんな事、言われなくっても分かってる」そう言おうとしたが、言葉が口に出る前に言葉を飲み込んだ。
あんなことになってもきっとあいつは私を恨んでない。
むしろ私が何事もなく健康に生きていられてることを、あいつは嬉しく想ってくれてる。
それが分かってるからこそ、自分自身、あいつに恨まれてると思いこんで、自分を咎めないと自分が自分で居られなくなる気がして怖いのだ。
私は何も言わずに外を眺めた。
そんな私の態度に母も何も言おうとはせず、黙って車を走らせた。
家を出て1時間20分ほど時間が経過した。
今、向かっている場所周辺には高層ビルなどはなく、かなり遠くまで見渡せるほど何も無い場所なのだが、車から見える風景は激しい雨のせいで、そんなに遠くまでは見えない状態になっていた。
『ここまで来たんだし、一応、行くだけ行ってはみるけど、この雨、大丈夫だろうか?』
車が進むにつれて、雨は激しさを増してるように感じた。
これでは持参した傘も全く役に立たないと思えてしまう。
それぐらい雨の勢いはどんどん激しくなっていった。
「雨、凄いわねぇ・・・この様子じゃ、傘も全然役に立たないかもしれないわね・・」
母も同じ考えらしく、運転しながらため息をついた。
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