(二)

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 オグノスは右手一本でマッチの箱を取り出し、スライド式の箱を半分だけ開けた。普段はそんなことはしない、両手で箱を開けてマッチを取り出し、片手に箱、片手にマッチの柄を持って擦らせる。だが今の彼の左手には大切な宝物が張り付いていた。ルーペをリュックに入れるという考えに至らなかった。オグノスはただルーペを無くさないことと、早く火をつけたいという思いでいっぱいだった。  震える右手で、箱を傾け上下に揺らす。かちゃかちゃと音をたて、中のマッチの柄が箱の縁に引っ掛かるのを期待した。その一本を唇に挟み火をつけようというのだ。もっと効率のいい方法などいくらでもあるはずなのに、今のオグノスには思いつかなかった。  彼の愚直な思いつきは成功した。目の利かない暗闇の中で、数本のマッチの尻が箱に引っかかった手ごたえ。オグノスは震える体を精一杯抑えつけながら、唇を尖らせる。自分の手元も見えない中、恐る恐る探るようにしていると、唇にマッチの箱が当たった。慎重にその輪郭をたどり、三本のマッチを咥えることができた。あとは目の粗い箱の側面につきたて、擦るだけ。オグノスは箱を閉じることも忘れて、慎重に箱を傾けた。中のマッチが数本、ぱらぱらと落ちていく。その音を聞きながらマッチを押し当てる。擦る。勢いが足りなかったのか、火はつかなかった。それどころか、咥えていたマッチの一本は柄からぽっきり折れてしまった。
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