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ついていない。オグノスはもう一度試した。箱から、残っていたマッチが抜け落ちた。二度目の挑戦も煙のにおいが上がっただけで、失敗に終わった。
マッチなど子供だってつけられる。オグノスは苛立ちながらもう一度試したが、結果は最悪だった。そもそも体勢に無理がある。オグノスは左利きで、挙句その手につかんだルーペと脇に挟んだ松明を落とさないよう意識しながら、不器用な右手と口でマッチをつけようとしているのだから。なんの拍子なのか、マッチの箱はオグノスの手から滑り落ちていった。あっと思った瞬間には唇に挟んだマッチも落ちて、その存在は闇にのみこまれていく。
オグノスは慌ててかがみこんだ。尻や膝、頬、腕、ところ構わず全身に、周囲の雑草が触れてきた。ただの草だ。彼は存在を感じながらも手さぐりでマッチを探した。なのに、マッチ一本どころかマッチ箱さえも、その指先に触れることはなかった。
脇にしっかりと挟んでいた松明がころりと落ちた。周りの雑草が受け止める音。つうとわき腹を伝う汗の感触に、体中が一気に冷えていく。力いっぱい握った左手のルーペも汗にまみれて、今にもつるりと逃げ出してしまいそうだった。
これだけは渡すものかとオグノスはルーペを胸に抱きこんだ。両手を重ねるようにして、しっかりと握りなおす。それから目を閉じた。森を出るのは諦めよう。
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