(二)

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 すると急に気が楽になった。オグノスはすり足でまっすぐに進みだした。するとすぐに、靴底に堅いものがぶつかる。雑草ではない。木の根だ。それをたどれば、すぐに木にありつけた。大きな木だ。オグノスの腕では抱えきれないほどの幹。湿り気のあるでこぼこした皮からは、ほのかに甘い香りがする。その凹凸に指をかけて、オグノスは力任せに登って行った。途中爪が一本割れてしまったが、とりあえず体を任せられそうな太い枝までたどり着いた。それをまたぎリュックを胸に抱くと、あのルーペがちゃんと中にあるのか不安になった。  手を突っ込むと、硬質な円形のものが爪に触れた。それを引っ張り出して、両手で包みこむようにして胸に当てると、全身に安堵が広がる。思わず体が傾いたが、有難いことにちょうど肘をかけて頭をもたせかけることができる位置からも太い枝が出ていた。  そうしてみると、この木はまるで居心地の良い椅子のようだった。遊び疲れた子供のために、母親が用意しておいてくれるとっておきの場所のようだ。  彼はそれ以上なにも考えることなく眠りについて、村の大人たちが名前を呼ぶ声で目を覚ました。陽はとっくに昇っていて、重なり合う緑の隙間から温かい光がもれていた。
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