(二)

12/18
前へ
/39ページ
次へ
 世の中は、たくさんの人が諦め忘れてきた宝物に満ちていた。伝説の勇者の朽ちた谷、忘れられた王家の墓、異種族に奪われた砦。火のないところに煙は立たない。とはいえそんな大物に手を出すようになったのは後のことで、始めは行方知れずになった貴族や冒険者の噂話をたどり、彼らの屍をあさるような日々だった。  そうして資金をためながら国中を渡り歩いた。その間にもたくさんの古い文献に目を通し、彼は獲物を品定めした。やっと報酬を出して冒険者に護衛を依頼できるほどになると、彼は異種族の出るような危険な場所に赴くようになった。ため込んだ調査力がものを言い、外れを引くことはほとんどなかった。そのうちに見よう見まねで剣を振り回すようになり、護衛も雇わなくなった。  逆に、その頃にはオグノスの名前を聞けばついていきたいという者が後を絶たなかった。果ては名乗らずとも、胸に光る銀細工のルーペだけで正体がばれてしまう始末だった。  他の宝物は、探検に必要な資金のためにすべて売り払っていた。誰かが「ほしい」と言えば最低限の額だけ受け取り惜しげもなく譲り渡した。金が十分足りているときなどは、ただで引き渡すこともあった。そんな義賊めいた行も手伝ったのだろう、彼の国での評価はうなぎ昇りだった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加