(二)

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「オグノスさん、入りますよ」  宿の扉がノックされ、オグノスは我に返った。手元には分厚い手帳。若いころにびっしりと書き込んだメモは、もはやルーペがなければ読めなくなっている。机で眺めているうちにまどろんでいたらしい。 「ああ」 「すいませんね、夜分遅くに」  入ってきたのは、オグノスよりもやや若い、五十代半ばの男だった。陸地で覚えのある場所はすべて制覇して以来、海に出るようになったオグノスが最初に雇った航海士だ。歴史の研究家を自称し、質素で欲のないところが気に入っている。 「若い連中にはついていけませんでな、下の酒場じゃ落ち着きませんで」  苦笑いしながら氷の入ったグラスを二つ、机に置いた。確かに、一階からは若い男たちの馬鹿騒ぎが聞こえていた。 「飲みませんか」 「もらうよ」  答えを聞く前から、航海士は琥珀色の酒を注ぎ始めていた。
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