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「オグノスさんは不思議な人だ」
二人分を注ぎ終えると、彼はベッドの縁に座った。オグノスも椅子を引き、彼に寄る。控え目な彼は声まで小さく、近頃は耳も利かなくなってきたオグノスには聞き取りづらかった。
「私は十五から航海士として海に出てるんですがね」
「知ってる」
「若いころはこれでも、海賊船なんてのに乗ってましてね。いやあ、戦いに負ける度殺されるもんだと腰抜かしたもんですよ。まあ航海士なんてもんは重宝がられるもんですから、こうして生きてますけどねえ」
「それも知ってる。賞金稼ぎどもにつかまったお前を、処刑場で買ったじゃないか。お前、もう酔ってるんだろう」
オグノスは呆れて、航海士の肩を小突いた。見れば、痩せて飛び出した頬骨の辺りは赤く染まっている。酔うと昔話に走る癖は何年経っても健在だった。
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