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ため息交じりにそういうと、ふと航海士は口と閉ざした。真鍮のメガネごしの、落ちくぼんだ瞳がオグノスをじっと見下ろしている。老けたな、とオグノスは思った。それ以上に自分は年だ。彼もそのことに気付いているのだろう。
「だが俺は疲れた」
「そりゃ……」
航海士はちょっと口ごもると、笑顔を浮かべ、ベッドに腰を下ろした。
「あれだけの大仕事の後ですから。それに私ら、もう若くありませんからな」
「年のせいだけじゃない。俺は陸は十分探したんだ。海だって、もうたくさんだ」
「何をおっしゃる。たかだか十数年じゃないですか。私なんか――」
「アトランティカだぞ!」
遮るように、オグノスは声を荒げた。航海士は白くなった眉を悲しげに下げている。
「あのアトランティカ跡をさらったんだ。それでも俺は満足しない。他にどこ探せってんだ、え? 陸続きに北上して先進大陸まで行くつもりか? 氷の海を渡ってそのまま静かの森にでも行けって? それとも賢者オズに頼んで空でも探せってのかよ。俺は地質学者でもなきゃ歴史なんとかでもないんだ。俺は疲れたんだよ! 何探していいか、もうわからねぇんだ、それでもまだ探したいんだ、なのに自分の手元すら満足に見えねぇ! 気がおかしくなっちまう!」
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