(一)

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 期待した反応が得られなかったからか、若者はじれったそうにオグノスの後ろに回り背中を押してきた。  そんな無邪気な様子に、オグノスもついつい笑顔になる。近頃の彼は二十代前後の部下たちを見ると、息子がいたら、などと考えてしまうのだ。だが所詮自分のような根なし草には家族など無縁。そもそも女とも無縁だ。 「あんまりはしゃぎ過ぎるなよ。帰港する体力は残しとけ」 「わかってますよ!」  若い彼は自慢の胸板をドンとたたくと、白い歯をのぞかせて微笑んで見せた。
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