(二)

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(二)

 探検家オグノス。彼の冒険の始まりは少年の頃だった。  ある夜、近所の森の猟から帰った父親が、祖父からもらったお守り代わりのルーペを落としてきたと言って落ち込んでいた。縁に銀の細工が施され、小粒ながらもサファイアとオパールが散りばめられた、装飾品のようなルーペだった。  その風合いは時の流れを重ね深みがあり、少年オグノスは大人になったら父から譲り受けると約束を取り付けていた。  あれのことは諦めなさい、そう言われてベッドへ入ったが、彼の頭の中はあの古びた輝きを持つルーペでいっぱいだった。それは半世紀以上も前に祖父が国の狩猟大会で国王から賜ったものだという。しがない猟師の家に生まれついたオグノスにはあれ以上に美しいものを見たことがなく、そう簡単に諦められるはずがなかった。  両親が寝静まった深夜、オグノスは家を飛び出した。父親がいつも携えているリュックを担ぎ、家の裏手に立てかけてある松明を抱え、一直線に森へ向かって走って行った。
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