(二)

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 けもの道をでたらめに歩き回ってどれくらい経っただろうか。オグノスは炎に踊る草間に、一瞬鋭い光の反射を見つけた。  夜だったことが幸いした。無言で光に歩みより、視界をふさぐ雑草をかきわける。  しかしなかなか見当たらないので、松明を小さく振ってみた。するとまるでオグノスの信号に返信するように、チカチカと瞬きのような光が返ってくる。オグノスはその辺りへ屈み込んだ。  あった。競い合うようにしてびっしりと生えた太い茎の根本に、ルーペは挟まっていた。拾い上げてみると泥汚れ一つなく、何事もなかったような様子だった。縁のてっぺんの金具に通してあった革紐はなくなっている。猟の最中に切れたのだろう。そんなことを思いながら、オグノスはルーペをてのひらで包み、ゆっくりと傾けてみた。  暗黒の森の中、揺れる炎を受けて、流線形にかたどられた銀は濡れるように艶めいた。細かく表面をカットされた宝石たちは幻想の世界の蝶が羽ばたくようだった。普段以上の魅力をもって、ルーペはオグノスを虜にした。  不意に一陣の風が吹いた。耳を覆うごうという草葉の音と共に、松明が消える。
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