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オグノスははっとした。その時にはすでに完全な闇に覆われていた。手元のルーペすら見えない。さっきまで彼を魅了していた輝きは消えている。慌ててルーペをかざしてみたが、ルーペが光ることはなかった。
この辺りに、光を放つものはもう何もなかったのだ。
オグノスは愕然として凍りついた。今になって耳につくのは、見えない虫の嘲笑うような声、獣の息遣いと潜めた足音。そしてあまりに大きすぎる、自分の鼓動。
火を。点けなければ。
思いつくと、オグノスは松明を脇に挟み、強張る体でリュックに手を伸ばした。その手を薄い刃物のようななにかがかすめる。パシン、と音が鳴り、オグノスは甲高い息を漏らした。体が動かない。虫の音と、乾いたものがこすれあうカサコソという響き。闇の気配に変化はない。
草だ。オグノスは体を縮めたままふとそう思った。手の甲を、草に当てたのだ。ひりつく左手を引き寄せ舐めてみると、ぴりっとしみた。
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