(二)

4/18
前へ
/39ページ
次へ
 オグノスははっとした。その時にはすでに完全な闇に覆われていた。手元のルーペすら見えない。さっきまで彼を魅了していた輝きは消えている。慌ててルーペをかざしてみたが、ルーペが光ることはなかった。  この辺りに、光を放つものはもう何もなかったのだ。  オグノスは愕然として凍りついた。今になって耳につくのは、見えない虫の嘲笑うような声、獣の息遣いと潜めた足音。そしてあまりに大きすぎる、自分の鼓動。  火を。点けなければ。  思いつくと、オグノスは松明を脇に挟み、強張る体でリュックに手を伸ばした。その手を薄い刃物のようななにかがかすめる。パシン、と音が鳴り、オグノスは甲高い息を漏らした。体が動かない。虫の音と、乾いたものがこすれあうカサコソという響き。闇の気配に変化はない。  草だ。オグノスは体を縮めたままふとそう思った。手の甲を、草に当てたのだ。ひりつく左手を引き寄せ舐めてみると、ぴりっとしみた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加