(二)

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 ここはただの森だ。オグノスは言い聞かせる。父はいつも猟に出て、ウサギやらキツネのような小動物を持ち帰るばかりじゃないか。よくてもシカが関の山。ルーペを手にするまでだって、生き物一匹見つけやしなかった。視界が利かなくなったからといって、この闇の中に別のものが紛れ込むわけではないのだ。怯えることはない。  オグノスは浅く長い息をひとつつくと、今度は怪我をしないように慎重にリュックを前に持ってきた。  炎が辺りを照らしていたときには、雑草のことなどほとんど気にならなかった。だというのにどうだ、明りが消えた今、手に触れる葉の一枚一枚が、靴の下で折れる茎の一節ずつが、なんと存在感を放つことだろう。革製のリュックはカビ臭くにおい、その手触りは柔らかい温かささえ感じさせる。その中に突っ込んだ指先に当たるのは冷たく硬質な金属の水筒、鍵、この丸まった柔らかいものは地図を描いた羊皮紙だろうか――。それらの縁をなぞるようにして探っていくと、小さな四角い箱の角に指が触れる。カチャ、と聞きなれた音。マッチの箱だった。ほっと息をつく。
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