(一)

1/4
前へ
/39ページ
次へ

(一)

 凪いだ海原のただ中で、船の上のオグノスは身を乗り出し、じいっと目をこらしていた。  空は雲一つない晴天。だというのにこのアトランティカ海域は、昼の眩しい太陽でも照らし出せないほど深かった。こうして無言でのぞきこんでいると、巨大な群青が遠退いていくような、こちらへ向かって迫り出してくるような、ひどいめまいに襲われる。  オグノスは一度きつくまぶたを閉じると、ため息と共に遠い景色に目を向けた。  辺りには小島の陰もなく、ただ色の深いガラスのような海が水平線まで続くだけ。遥か東のけぶる彼方には、陸地が見えた。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加