3人が本棚に入れています
本棚に追加
「随分な言われようね」
エレベーターを降りた瞬間、腕組みをしたままショートヘアの女が声を掛けてきた。
「見てたんなら助けてくれよ…」
「嫌よ。私、あの人達嫌いだもの。それより」
呻く俺にビシリと指を突きつけてくるショートヘア。
「さっきの態度はなに? 少しは謝ったらどう? 遅れてすいませんでした、って。 それが社会人としての常識…」
「あー、はいはいわかったわかった。 聞いてやるから後で、な」
頭をぐしぐし掻きながら横を通り抜けようとするが、女は肩に手を伸ばし止めようとする。
「ちょっと!」
しかしその手は空を掠める。
俺は既に彼女より数m先を歩いていた。
付き合っているといつ終わるか分からない。
取り敢えず、まずは一服だ。
急いで追いかけてくる彼女を尻目に硝子戸を開ける。
ソファーに腰を降ろすと、走ってきたのだろう、息を切らしながら追いついた彼女がガラス越しに何かを叫んでいる。
しかし聞き取ることは出来ない。
ここは防音が完璧なのだ。
そのため密談にも使われることが多い。
ま、業務内容に関係あるかどうかは定かでないが。
と、不意に彼女の後ろに男の影が。
そいつが女の肩に手を置くと、振り向いたショートヘアは少し顔を赤らめた後、キッとこちらを一瞥したまま部屋に戻っていった。
男は喫煙室に入ってくると、俺の横にドカッと座り込んで手を出してきた。
「悪ぃ、一本くれねぇか。
切らしちまってな…」
最初のコメントを投稿しよう!