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俺は無言で男に箱を差し出す。
残り少ないなら断るが、買ったばかりだから気前も良くなるもの
だ。
「サンキュー」と言いながら煙草を一本つまむと、直ぐさまふところからライターを取り出し火を付けた。
ふう、と一つ息をついた男。
「大変だな、特殊任務って…」
俺の声掛けに、男は苦笑しながら、
「まっ、優秀な奴にはそれ相応の仕事が廻ってくるってもんだろ?」
「自分で言うか」
ハハハと喫煙室に響く笑い声。
この男の名は鈴鳴戒二。
俺と同じ特殊犯罪捜査課の刑事だ。
課の中では一番話が合う男だが、今はあいにく特殊任務で忙しいようだ。
ちなみに内容は知らされていない。
どうやら口外は禁物のようだ。
「で、どうよ。そっちの方は?」
「ま、相変わらず平和だよ」
俺は煙草を灰皿に押し付けながら、
「廻ってくるのは能力者が関わってるのかどうかも微妙な軽犯罪ばかり。派手な案件は全て上の奴らの物だからな…」
「クハッ!信用されてねぇなぁ…」
クククと笑いを漏らすように、鈴鳴。
「ま、無理もない話だけどな」
俺は軽く肩をすくめる。
「さっきも上で田端のおっさんと鮫島に会っちまってな、言われたよ、信用してないって」
「ケッ!コバンザメが!言ってくれるぜ……」
憎々しげに顔を歪める鈴鳴。
無理もない、何しろこいつは鮫島に逮捕されてるからな…
と、ガラスを隔てた向こうから扉が開き、ショートカットの女がつかつかとこちらに歩いてきた。
俺の目の前に立つと腕を組んだままじっとこちらを見つめている。?
「なーんか、言いたそうだな…」
鈴鳴は楽しげに言うと、彼女に向かってスッと腕を伸ばした。
その瞬間だった。
彼の身体は瞬く間に消え、代わりに現れたのはショートヘアの女。
俺に背を向けていた彼女は慌てて振り向くと、何か言葉を発そうとしたが、諦めたように溜息をついてドカッとソファに腰を降ろした。
ふと見るとガラスの向こうで鈴鳴が後ろ手に手を振りながら去って行った。
気を遣ってくれたようだが、正直ありがた迷惑だ。
というか無闇に能力を使うのはどうかと思うぞ。
まあ、俺も強く言えたクチではないが。
見ると、目の前の女は下を向いて黙ったままだ。
さて、どうしたものか……
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