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男の声に、俺は構わず走り出そうとする。
大丈夫だ、まだ行ける。
全身を奮い立たせて何とか立ち上がろうともがく。
俺には能力があるんだ、こんなところで……
「だから、無理させるなって」
耳元で声。ゾクリとするような響き。
瞬間、俺の身体は地面に叩きつけられる。
殴られた!?いや、違う、触れられてはいない…なら、どうやって…?
混乱しながらも何とか足掻こうとする。
しかし、指一つ動かすことが出来ない…!
まるで見えない何かが押し潰そうとしているかのようだ…
砂利を踏む音。そして、俺にかかる影。
見上げようとするも、首を動かすことすらままならない。
「えーっと、なんだったっけな…」
すっとぼけたような声。
ポリ、と頬を掻く音に続けて、
「えー、A級特別手配犯、通称【運び屋】桐生昭人、君を逮捕する。罪状は……言わなくても分かってるよね?」
「ぐっ……がっ………ち、ちが……俺は、何も………ただ頼まれ…」
「さっき確保した【逃がし屋】の子も同じこと言ってたっけ。ま、そこんところは後で訊けばいいか…」
と、男はしゃがみ込み、俺へと手を伸ばす。
「じゃ、付いて来てもらおうか」
途端に、油断したのだろうか、俺を押し付ける何かの力が微かだが弱くなる。
このチャンスを逃すわけにはいかない
こんなところで、捕まるわけにはいかないんだ…!
俺は最大限の能力を解放するべく、全身に力を…
「だから、無駄だって」
ボソリと呟く声。
瞬間、ズン!という響きと共に、俺の意識は断ち切られた……
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