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「……ちょっと、いつまでくっついてるのよ…!」
「うおっ……!」
グイッと押しやられた俺は、我に返ったばかりで受け身も取れず、したたかに床に頭をぶつけてしまう。
「っ痛ぇ!」
「もうっ……誰かに見られたらどうするの…!」
「おまっ…普通謝るのが先だろ…!こぶになったらどうする!」
頭をさする俺を見て流石に罪悪感が出てきたのか、女はそっぽを向きながらも、
「ま、まあ、おかげで落ち着くことはできたけど……」
何やらぶつぶつと呟いている。
まったく、この女こそ昔とちっとも変わっちゃいない。
こいつの名は品川冴子。
俺が刑事になる前からの腐れ縁だ。
昔から何かと俺に突っかかってくるのでいい迷惑だ。
黙ってればそれなりなんだけどなあ…
「なによ、何か言いたいことでもあるわけ?」
おれの心の声が聞こえたのか、品川がジロリとこちらを睨む。
「いや、別に。ただ……」
「なに…?」
「昔と変わらないのはどちらかなあ、って」
瞬間、彼女の顔が見る見る内に赤くなっていった。
まったく、見ていて飽きないよな。
人ごとのようにぼんやり思っていると、品川は俺の上にのしかかり…
もとい、襲いかかってきた。
「どの口が言うんじゃどの口がぁ!」
「あがががが!いひゃい(痛い)!いひゃいっへ(痛いって!)」
コンコン
不意に扉をノックする音。
返事をするより先にガラス戸が開き、小柄で童顔な男が顔を覗かせる。
見るなり、半ば諦めたかのような半笑いを浮かべつつ、
「お二人とも、こんなとこで真っ昼間から何やってんすか…」
途端、冴子が俺の身体からパッと飛び退く。
解放された俺は口元に手をやる。
引き伸ばされた部分がまだジンジンと痛む。
「ちっ、違うの拓海くん!私たちは別にそういう関係じゃ……」
慌てて立ち上がり弁明しようとする品川。ちょっと思考が飛んでる気がするが、まあ通常営業だ。
拓海と呼ばれた青年は、俺の方をヒョイと覗いてニコッと笑顔で言った。
「アキトさん、課長が呼んでるんで、ちょっと来てもらっていいっすか?」
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