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はーっ、と大きくため息をつきながらドカッと椅子に座りこむと、男は携帯灰皿をふところから取り出し、咥えていた煙草を無造作にぶちこんだ。
……とまあ一人ごちたところで、心の声を聞いている奴など誰もいない。
むしろいたらそいつは能力者だ。
俺の目の前でカタカタとキーボードを叩いていた女が一瞬手を止めてこちらを睨む。
ここは禁煙ですよと言わんばかりだ。
まあ実際そうなのだが。
自己紹介が遅れたな、俺の名前は……
まあ、その内誰かが呼ぶだろう。
ここは仕事場なのだから。
「おーい、桐生くーん」
間の抜けた呼び声が前方から聞こえてくる。
桐生、と呼ばれた俺は気のない返事をしながらそちらに足を向ける。
そう、俺の苗字は桐生。
下の名前は……
また、その内誰かが呼ぶだろう。
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