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小柄な男が俺に声をかける。
しかし、俺は敢えて返事をかえさない。
何故なら、俺の名前はアキトでは無いからだ。
よく間違えられる。故に腹が立つ。
「いやー、暑い暑い…」とワイシャツを汗だくにしながら小柄な男が自分の机に向かう。
それと入れ替わるように、部屋の奥の引き戸がガラガラと開き、一人の女がお盆を手に出てきた。
「お待たせしました~」
おっとりした声音。
小柄だが出るところはキチンと出ている。
ショートヘアの女より断然スタイルが良い。
「はるひちゃん!今日も可愛いね~!」
先程とは打って変わって張りのある声で、目の前の男が声をかける。
目の前にお茶が置かれると、男はサッと女の尻に手を伸ばした。
「いやぁん、課長ったら~!」
はるひと呼ばれた女は身をくねらせながら避けると抗議の声をあげる。
しかし口調はのんびりとしたままなので、若干喜んでいるようにも聞いてとれる。
はーっとため息。恐らくショートヘアだ。
「ごめんごめん、はるひちゃんがあんまりにも魅力的だったから思わず手が……」
「もう!課長ったらお上手なんだからぁ~」
俺は目の前でカップルのようなやり取りを続ける二人から視線を逸らし、部屋の中を見やる。
黙々とキーボードを叩く女、腕組みしながら唸る女、ふあーとあくびをする男…
今日もここは平和だ。
俺は尚もやり取りを続ける二人に視線を戻すと、ぼそりと呟くように言った。
「あの、もういいすか……?」
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