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人通りもまばらな道を、男は歩いていた。
ニット帽を被り、少し前傾気味の姿勢。歩みはそれほど速くない。
と、前方から一人の少女が歩いてきた。
「にんじん、玉ねぎ、ピーマン、じゃがいも……」
野菜の名前を連呼しながら歩く少女。
母親にでも頼まれたのだろうか、買い物籠をぶんぶん振りながら歩いている。
「にんじん、玉ねぎ、ピーマン、じゃがいも…」
男と少女の距離は段々と縮まっていく。
二人がすれ違う瞬間、男は常人には見えない速度で少女に手を伸ばす。
しかし彼女は気付かない…!
そのまま二人が通り過ぎる。
少女は言葉を続ける。
「にんじん、玉ねぎ…………じゃがいも」
徐々に少女は遠ざかっていく。
「にんじん、玉ねぎ…………じゃがいも」
きっと少女は怒られてしまうだろう、買い忘れたものがあると。
可哀相だが仕方が無い。
男は自分の力を改めて実感しフフッと笑い、呟いた。
「ピーマン………」
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