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「あ、もういいよ」
呆気らかんとした課長の一言で開放された俺は無言で部屋を出ていった。
ショートヘアの視線が痛かったが、小言は一服させてもらってからでも遅くないだろう。
喫煙室と書かれた硝子戸を開ける。
中にはソファーが一つ置いてあるのみ。
扉も壁もガラスで出来ているので外から丸見えだ。
まあ、この部屋を使うのは俺ともう一人くらいなので全く支障は無いが。
ふところをまさぐった俺は静かに呻いた。
「マジかよ……」
煙草を机の上に置き忘れてしまった。
わざわざ取りに戻るのも面倒だし、あの女に捕まるのも避けたい。
どうせ一本だけだったな、と思い出した俺は、喫煙室を出るとエレベーターの方へ足を向ける。
乗り込むと、1Fのボタンを押す。
ゆっくりとエレベーターが上昇していく。
降りると、先程までの静けさが嘘のような活気だった。
スーツ姿の男がせわしなく横を駆け抜けていく。
連行されてきたのだろうか、前方から数名の男に取り囲まれたラフな格好の男性が「俺じゃない!」と叫びながら階段へ連れられていった。
俺は目当ての自動販売機までたどり着くと、小銭を数枚いれる。
ガシャンという音と共に吐き出された煙草を手に取り去ろうとするが、
(げっ………)
前方からこちらに向かってくる男達。
手前の男は、俺に気が付くとニコリともせずに声を掛けてきた。
「よう、元気か犯罪者」
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