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男の言葉に俺の胸はチクリと痛んだ。
だがそれをおくびにも出さないのが俺だ。
「ええ、おかげさまで…」
精一杯の皮肉を込めたつもりだった。
だが男はさもつまらなさそうに鼻を「ふん」と鳴らすと、飲料機の自販機の方へ向かう。
彼の横に立つ男は無表情だ。
彼より大分若い。確か俺より少し年上だったような気がする。
まあ他部署の人間とはあまり交流が無いし、特に俺たちは鼻つまみ扱いされてるからさもありなんだ。
俺を犯罪者呼ばわりした男の名は田端剛三。
小柄で無精髭を生やし、くたびれたコートを羽織る様はまるでドラマから出てきたかのようだ。
彼の隣にいる若いのは鮫島弘道。
まだ30ちょいのはずだが、身のこなし、鋭い視線といいベテランの風格が漂っている。
田端に相当ノウハウを叩き込まれているようだ。
二人とも捜査一課の刑事だ。
「まあ、精々刑事ごっこでも楽しみな」
手の中で飲料水の缶をもてあそびながら、田端。
そのままプルタブを引き、グイッとあおると言った。
「だがな、少しでも妙な動きでもしてみろ。
俺がまたお前を逮捕してやる…」
「我々は君たちを信用し切ることは出来ない。それをゆめゆめ忘れるな」
それぞれ言葉を残すと、二人は立ち去っていった。
何も言い返す事が出来ないし、したところであいつらが言っている事に間違いはない。
気付くと買ったばかりの煙草がクシャクシャになっていた。
知らず知らずの内に握り潰してしまったようだ。
俺は大きくため息をつくと、仕事場へ戻るべくエレベーターへと向かうのであった。
そうそう、自己紹介が遅れたな。
俺の名前は桐生昭人(アキヒト)
特殊犯罪捜査課の刑事だ。
そして、元犯罪者でもある。
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