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「痛みを…感じるかい?」
―その時だ。
アキトでもクラフトでもない男の声が聞こえた。
白んだ視界の中で振り向くと、川上の高台からこちらを見下ろす人影が不確かにボンヤリと揺らいでいた。
「痛みは危険信号だ。脅かされる生命の危機に対するシグナル。
痛みがあるから避けようと努力し、痛みがあるから互いに想いやる事が出来る。痛みを伴わない成長は有り得ない…。
その痛みが羨ましいよ…カイ…。」
突然名前を呼ばれて戸惑った。
「だ、誰だ!おまえ一体…!?」
「…目が…見えてないのか。久々に会ったって言うのに…。」
残念そうに納得すると、謎の男は「よっ」という掛け声と共に高台から飛び降りた。
10メートルはあろうかという高さからストンと見事な着地を決めて俺との距離を一気に縮める。
近付いてくる謎の男を俺は警戒した。
「ねー!ホントにカイちゃんなのー!?」
高台の方にまだ誰かいるようだ。女の子の声が聞こえた。
「あ!あの天才が倒されてるよ!カイちゃんやるねー!」
「はん、あんな奴てぇした事ねぇよ!必死過ぎ!視力失うとか笑っちまうな!」
「…というかあいつ…おいアシタカ!おまえ足が逆方向に曲がってるんだが大丈夫か?」
「ああこれ?うん、折れてるよ。」
そう言って男はケラケラ笑った。
「アシタカ…?」
さっきのヒントを元に俺は名前を呼んだ。
施設に居た頃に聞いた名だ。
『僕、スーパーマンになったんだよ。』
そう言って笑う白髪の少年を思い出す。
間違いなく俺はこいつを知っている。
「僕が誰だか分かるんだね?」
白んだ世界で曲がった足を気にしながらアシタカがそう言った。
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