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…考えてみれば当然だ。
インセプションで情報を一気に流し込めば脳に負担が掛かる。それを何度も繰り返してればいずれは脳が破壊されてしまうだろう。
慣れたんじゃない…受け切れない情報を脳が拒絶しだしただけだ。
次にインセプションを放てば恐らくクラフトは…
「ちょッ…まッ…ッ!!!」
直感で気付いたのか、クラフトは俺から顔を背けて堅く目を閉じた。
その瞬間から二人は沈黙した。
川のせせらぎの音が誇張され、風が怪しげに頬を撫でる。
長い長い時間が辺りを包み込んだ…。
ピクリ…とクラフトのまぶたが動いた。
動きの無い不気味な雰囲気に堪え切れなくなったのだろう。そっと目を開いた。
俺の行方を探そうと眼球が揺れる。
…だけど、探す必要は無い。
俺はすぐ目の前でクラフトが目を開けるのを…ずっと待っていたのだから…。
視線が重なる。怯えた顔のクラフトが臆病だった幼少を思い出させた。
なんて懐かしいんだろう…。
こうなる前に助けてあげられたら良かったのに…。
「すまない…クラフト…。」
謝罪と共に視線から大量の情報を送り込む。もっと多く、もっと濃く、映画や漫画や小説、昔の思い出も全部、ありったけの情報を送り続けた。
「あッ…!ああ!ああああああああああああッーーーッッ!!!!」
拒絶し続ける脳に無理矢理ねじ込む。
クラフトの断末魔が辺りに響き渡り、フッと身体中の力を失ったようにバタリとその場に倒れ込んだ。
俺は目を背けるように空を見た。
もうすっかり朝になっている。青色がどこまでも続いていた。
…だけど、そんな清々しい青空が次第に白んでいく。力を使い過ぎた代償がのし掛かった。
何もかも霞がかり、不確かで使い物にならなくなった目を閉じた。
その瞬間、涙が溢れ出す。
「…ッ…クソォッ…ッ!」
上擦った声で苦しみを絞り出した。
また救えなかった。
ハスミだけじゃなく、アキトまでも死なせてしまった。…クラフトも…誰一人救えない。
施設を出てから強くなったと思っていたのに…なんて無力なんだ…。
最低だ…。
「最低だ俺…ッ!!」
悔しくて…苦しくて仕方がない。涙が止まらなかった。
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