11人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「トーマ…トーマ…ッ!!救えなかったッ…救いたかったのに…ッ!!」
そう言うとトーマはハスミさんを見つめながら悲しそうな表情を浮かべた。
「カイさんがまだ戦ってるのッ…!!あの男の人を追い掛けて…ッ!!」
ぐしゃぐしゃの顔をトーマの首筋に埋めながら私は泣き言を続ける。
「もうこれ以上誰も傷付いて欲しくないのにッ…私ッ…どうする事もッ…!!!」
願い事をするように小さく叫んだ。
しばらく泣いていると、突然トーマが身体を揺すって私の腕を振りほどいた。
トーマと僅かな距離が生まれ、視線が重なる。
涙で歪んだ顔を見詰めるその目は不思議とどこか違って見えた。まるで分度器を逆さにしたようなひねくれた目をしてる。
トーマは私のおでこに優しく口を当てた。いつものように舐めるのではなく、まるでキスのようだった。
そして、ハスミさんにも同じようにおでこに口付けをした。
「ありがとう…。」
トーマがハスミさんに小さくそう言った気がするけど、きっと私の聞き違いだろう…。
トーマは空に向かって鼻を向けた。何かを感じ取るようにスンスンと鼻を鳴らす。
そして、再び私と視線を重ねると猛スピードでどこかへと駆け出してしまった。
「トーマ!!」
そう叫んだがその姿はすぐに見えなくなってしまった。
呆然としてると警官が私の所に駆け寄って来た。
「クスギ財閥のご令嬢、楠木利里亜さんですね。」
右目の下に傷を持つ警官にそう訊ねられ、私はコクりと頷いた。
「…何があったかは後程聞きます。とりあえず安全な場所までお連れします。」
警官はハスミさんを見ながらそう言った。そして座り込んでいた私に促すように手を差し伸べた。
だけど私はその手を掴む事が出来なかった。
…今
死んだはずのアキトが側に居てくれた気がする…。
何故かそんな気がして、また涙が溢れてきてしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!