ユグドラシル

5/18

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「トーマ…トーマ…ッ!!救えなかったッ…救いたかったのに…ッ!!」 そう言うとトーマはハスミさんを見つめながら悲しそうな表情を浮かべた。 「カイさんがまだ戦ってるのッ…!!あの男の人を追い掛けて…ッ!!」 ぐしゃぐしゃの顔をトーマの首筋に埋めながら私は泣き言を続ける。 「もうこれ以上誰も傷付いて欲しくないのにッ…私ッ…どうする事もッ…!!!」 願い事をするように小さく叫んだ。 しばらく泣いていると、突然トーマが身体を揺すって私の腕を振りほどいた。 トーマと僅かな距離が生まれ、視線が重なる。 涙で歪んだ顔を見詰めるその目は不思議とどこか違って見えた。まるで分度器を逆さにしたようなひねくれた目をしてる。 トーマは私のおでこに優しく口を当てた。いつものように舐めるのではなく、まるでキスのようだった。 そして、ハスミさんにも同じようにおでこに口付けをした。 「ありがとう…。」 トーマがハスミさんに小さくそう言った気がするけど、きっと私の聞き違いだろう…。 トーマは空に向かって鼻を向けた。何かを感じ取るようにスンスンと鼻を鳴らす。 そして、再び私と視線を重ねると猛スピードでどこかへと駆け出してしまった。 「トーマ!!」 そう叫んだがその姿はすぐに見えなくなってしまった。 呆然としてると警官が私の所に駆け寄って来た。 「クスギ財閥のご令嬢、楠木利里亜さんですね。」 右目の下に傷を持つ警官にそう訊ねられ、私はコクりと頷いた。 「…何があったかは後程聞きます。とりあえず安全な場所までお連れします。」 警官はハスミさんを見ながらそう言った。そして座り込んでいた私に促すように手を差し伸べた。 だけど私はその手を掴む事が出来なかった。 …今 死んだはずのアキトが側に居てくれた気がする…。 何故かそんな気がして、また涙が溢れてきてしまったのだ。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加