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◆◆カイ◆◆
気が狂ったような怒声が森に響き渡る。
「クラフトォオオッ―――ッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「はははッ!こっちだよカイ!!」
俺はクラフトを追い掛けていた。誘われているのは分かっていたが、怒りで警戒心がすっかりと失われていた。
クラフトは右へ左へと飛び跳ね何度も木の陰に入り込む。目の前を駆ける逃亡者が視界から消える度、5.0の視力で草や土の僅かな変化を捕らえた。踏みつけられた跡が方角を教えてくれた。
「バアッ!!」
「ッ!」
子供のように木の陰で待ち伏せていたクラフトが剣を振り回す。連続して繰り出される攻撃を避けながら俺はひたすらインセプションを放った。動きが鈍くなった瞬間を狙って殴り掛かるが、その間にクラフトが動き出し、寸での所で躱される。
「もう慣れたよ!!何度も同じ事繰り返すなんて相変わらず芸が無いね!!」
剣の切っ先が首目掛けて飛んでくる。
「それはテメェも同じだ!首ばっか狙いやがって!!」
俺も避けるのに慣れたようだ。俺の目にはクラフトの動きがスローに見える。
双剣と腕を潜り抜けて俺はクラフトの懐に入った。力いっぱいみぞおちを殴り付ける。
「ぐふッ!!…チッ!非力なクセにやけに頑張るじゃないか!!」
クラフトは後ろに跳び跳ねて俺との距離を取った。
気付くと辺りは森を抜けて川が現れていた。川沿いの砂利が僅かに動きを鈍らせる。だけど、どちらにしろもうあまり動けそうにない。俺は完全に体力を使い果たしていた。
そんな状況の中、余裕ぶったクラフトが舌を出して気味の悪い笑顔を作った。
「ハッハハッ!そんなにハス姉の事が好きだったのかよカイくーん!!ぶちギレちゃって随分とカッコ良いじゃん!!」
からかうようにそう言うクラフトを真っ直ぐに見て俺は答えた。
「ああ、好きだったよ…!」
普段ならからかわれるだけで半泣きになる所だが、この時は違っていた。
遅すぎる言葉に後悔が混じる。
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