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「ありがとう。リリアを助けてくれて。」
純粋な想いが俺の心に染み渡る。くすぐったいような、そんな気持ちだ。
「ハスミさんにも…ちゃんと伝えたかった。」
そう言うとアキトの視線に陰りが生じた。
「伝わってるさ。」
俺は根拠も無くそう言った。だけどそんな気がしたのだからしょうがない。
アキトは呆れるように鼻でため息をついてからニッと笑った。
「お礼ぐらいさせてくれよ。それまで死なせないからな。」
「…分かったよ。」
俺は諦めたようにそう言って続けて声を張り上げた。
「全力で逃げるぞ!!」
決意を新たに俺は額に手を当ててインセプションのポーズを取る。
「逃げる?今逃げるって言った…?」
クラフトがそう訊ねながら足を踏み出して近付いてくる。
「逃がすものかッ!!組織の命令は絶対なんだ!!殺してやる!殺してやるッ!!」
クラフトが猛スピードで走り出した。その表情は常軌を逸してる。まるで狂った魔物のようだ。
「ホントにおまえ…どうしちまったんだよ…。」
幼い頃のクラフトの笑顔が脳裏を過って思わず言葉が零れた。
5年という歳月がここまで人を変えてしまう物なのか…。
「キラキラビーム!!」
目前でインセプションを放ってクラフトの動きを一時的に止めた。それと同時に俺は合図を送る。
「今だ!逃げるぞ!!」
俺とアキトはまとまり無く走った。
元から気が合わなかったのか俺と逆方向に走って行くアキトにはホントにビックリした。
だがそのおかげで動き始めたクラフトを惑わせ、一瞬行動を遅らせる事が出来た。迷った末に走り出したのはもちろん俺のいる方向だ。
「カイッ!!!」
砂利道を走るだけで体力を奪われるのにクラフトは何やら叫びながら追い掛けてくる。俺はとにかく後ろも振り返らず必死に走った。
…目が熱い。
俺はまぶたの上から右目を押さえて先程から感じる妙な痛みを堪えた。
「クラフト…ッ!ハスミが…どんな想いで…ッ…!!」
何か言おうとしても痛みに邪魔をされて言葉にならない。
力を使いすぎたのかも知れない。このまま使い続ければどうなるのか…正直嫌な予感しかしなかった。
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