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「……わたしの目の前におられる方が安らかに主の許へ往かれるよう、静かにその旅路を祈りたいのです。お話にはあとでいくらでも応じます。ですから」
今はお静かに、と言葉を切って口を強く結ぶ。とても真摯な願いだった。真に死者の尊厳を願う、静かだがとても強い言葉。
「すまない、手数をかけたようだ。しかし必要ない。どうやら死に損なった」
修道服の少女は一瞬の静寂の後。え、と微かに呟きながら、頑なに閉じていた目を開いた。
「……生きてる」
「そうか、他人から見ても生きてるのか。勘違いじゃなくてよかった」
少女の吃驚した顔を眺めながら、男はそれが余程面白かったのか、似合わない軽口を吐いた。他人との会話は思った以上に頭を回すようだ、軽口が出るくらいには。
「生きてるなら生きてるとはやく言ってください!!悪趣味です!!」
「悪趣味ときたか。人を勝手に死んでると思ったのはそっちだろうに」
「だって!!お店の人が朝から微動だにしないって言ってたし!最近行き倒れる人多いし!」
さっきまでの清楚は何処へやら、少女は慌てたように捲し立てた。こちらの方が年相応で、素の反応なのだろう。
「公私をよく分けていらっしゃるようで。まあ、そのことはもういい」
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