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ばあちゃんが死んでちょうど半月ほどが経とうとしていた。
時間というものは残酷で、今ではこの空間にはばあちゃんの存在を証明できるものは何1つない。僕の記憶だけだ。
そして、やがて時間の悪魔にばあちゃんの記憶も抹消されるのであろう。
やはり自分がその陰陽師の末裔だからと言って、何か特別な能力に覚醒するとか、そういうことは一切送らず、相変わらずの大学とコーポ杉並への往復の毎日だった。
しかし、極僅かではあるが、何かが見えてきた。
人はそれを霊感というのだろうが、僕にとってはお中元にいただくサラダ油やハムほどのありがた迷惑な代物だった。
最初は家のラップ音やスクラッチ音などに恐怖で震え、聞こえるうめき声から逃げるように布団を頭から被る毎日が続いた。
しかし、やはり慣れとかは怖いもので、今じゃ、料理に紛れた毛ほどしか気にならなくなった。
「どうしたの」
と中空に問えば、
「お前の身体が欲しい」
などと、野太い男性の声が脳内に響く。
「僕はゲイじゃない」
と答えれば、もう何も聞こえない。成仏したんだ。たぶん。
今ならぬ~べ~の気持ちがわかったような気もするが、写真を撮る度に写るほど酷くない。
今思えば、左手が鬼の手だとか、それこそ信じがたい世界の話だが所詮は漫画の世界だ。
もし僕の左手が鬼の手なら訳なく切り落とすだろう。
などと一瞬考えたが、そんなことできるはずがない。もし僕の左手が突然、鬼とか触手とかに変化しようものなら、見習って黒い手袋をはめるとしよう。
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