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「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……」
ポツリと、誰かの呟く声がした。その声はまだ、幼い少年のようだった。
声の主がいるその場所は、共同墓地だった。その地域で死んでいった人々の数だけ、白だか灰色だか分からなくなってしまった墓石がずらりと並んでいる。ざっと数えて、千、二千……いや、それ以上あるだろう。
そんなところに少年が一人、両手に色とりどりの花束を二つ抱え、立っていた。
青っぽいマントのような服を着て、ブーツに似た靴をはいている。そんな彼は何か、大切なものを失ったような哀しみに満ちた水色の瞳で、目の前に並ぶ二つの墓石をじっと見つめている。その瞳は潤んでいて、今にも“涙”という雫が溢れていきそうだった。
そんな彼を慰めようとするかのように、柔らかな風が少年の頬を撫でた。それと同時に、彼の銀色に輝く髪と、首に巻いているスカーフが風が吹いた方向と同じ方へ靡(ナビ)いた。
「僕は、知らなかった。あなた達が、あんな秘密を隠していたなんて。知らずに、僕は毎日楽しく笑っていた。あなた達も、笑っていたよね」
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