遠くない未来〈プロローグ〉

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少年は墓石に向かってそう言うと、静かに目を閉じた。そして、瞳に宿った哀しみと同じものに満ちた表情を残したまま、微笑みを浮かべた。それからまた静かに目を開き、それぞれの墓石の前に一つずつ花束を置いた。 「あの笑顔が本物だったのか、偽物だったのか……? あなた達がいなくなってしまった今、どちらなのかは分からない」 そこで少年は一旦言葉を切り、深呼吸をした。 「だから……だから僕は、信じることにするよ。あなた達と過ごしたあの日々が、あなた達に作られたものじゃないって。偽物なんかじゃないって。そうしないと、辛すぎるから……。僕が、辛すぎるから……。何も知らなかった、僕が……」 少年はまた、そこで目を閉じた。そして、自分の中から溢れ出てきそうなものを、必死で堪えた。しかし、それはもう既に少年に抑えることは出来なくなったようだ。 目を閉じた瞬間、“それ”が一粒彼の頬を伝い、流れていった。 すると、瞳から溢れる雫は、まるで何かから解き放たれたかのように、次々と流れ始める。
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