一話 月の夜に

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夢を見てるみたいな月だった。 川面にキラキラと反射する月が、とても綺麗で幻想的だ。 見ていると吸い込まれてしまいそうなー、 「・・・・あっ!?」 人にぶつかった。 その人はよろけて、欄干にぶつかってー 「な、ぁ」 欄干が破壊された。 私たちは欄干ごと下に落ちる。 その下は当然、川。 月の影に思い切りダイブした。 「げほっ、ごめんなさい!!」 顔を起こして全力で謝罪。 一緒に落ちた人は、ぽつりと呟いた。 「・・・みず、きらい」 同じ年くらいに見えるのに、妙に幼さの残る発音。 男の人だった。 水が滴り落ちる髪は漆黒、着ているフードパーカーは深い青。 「・・・えと、大丈夫?」 「・・・うん」 少年はこくっとうなずいた。 (なんか可愛いなー) 思わずそんな感想を抱く。 「私、篠沢結依(しのさわゆい)!あなたは?」 川から脱出しながら問う。 「・・・わかんない」 少年は、そう言った。 「わ、わかんないの?自分の名前が?」 こくりとうなずく少年。 「記憶、なくした。気付いたらここにいた」 突拍子もない言葉に面食らう。 「記憶喪失ってこと・・・?」 「・・・たぶん」 なんだか曖昧で戸惑う。 「っくしゅ」 少年が小さくくしゃみをした。 「濡れたままじゃ風邪引く・・・少年、家は?」 「知らない」 「だよねー・・・。よし、私の家おいで」 私は成り行きで少年を拾ったのだった。 *** 「はい、少年」 お風呂から出て、ソファに体育座りをする少年に湯気の立つカップを差し出す。 「・・・・・・・・・」 カップを両手で包むように持ち、鼻をすんといわせている。 匂いをかいでいるみたいだ。 「・・・いただきます」 小さく言って、カップに口をつけて、 「あつっ」 慌てて離す。 「猫舌なんだ?」 私は笑った。 (可愛い、猫みたい) 猫を拾ってきた気分だった。 「あ、ねぇ」 「・・・ん?」 「名前、どうする?あったほうが呼びやすいんだけど」 「・・・つけて」 少年はカップに息を吹きかけながら言った。 「好きに、呼んで」 私は頭を働かせる。 「・・・じゃぁ、刹那(せつな)?私の好きな言葉なの」 「わかった。僕は今日から刹那」 少年ー刹那は笑った。 少し幼さの残る笑み。 「よろしく、刹那」
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