1章

8/31
前へ
/58ページ
次へ
 リリアは暫くそのままノアの反応を待ってみたが、彼は一向に別の言葉を発しようとはせず、リリアの反応を待っているように見える。  リリアは観念したようにふっとため息をつき、ノアを手招いて駅へと向かった。そして、窓口に向かい、 「すみません、ビースビレッジまでの切符を発券して下さい。 えっと、大人二枚」 と言った。すると駅員は「少し待っていて下さい」と言い残し、奥へと入っていった。  都会だから、もちろん発券機はある。しかし、ビースビレッジ行きの切符は一般的に売られていないのだ。  昔こそ、行き来は多く頻繁に利用されていたのだが、ビースビレッジは小さな村だった上に、数年前の流行り病により急激に人口が減り、それに伴い行き来する人は極僅かとなった。  それから、この街からビースビレッジへ行く人も僅かであった。この街は国の中でも有数の大都市であるからわざわざそこに何かを買いに行く必要は無く、わざわざ遠くにある村に行って自然観光、なんてしなくても、一歩都市から踏み出せば、周りは広大な山々に囲まれている。  そのため、当初は駅をなくす計画もあったが、ビースビレッジから来た人が里帰りする際にまだ使用したいという声が少数あったので、現在はこのように特殊な態勢をとっている。  暫く待っていると、置くから駅員が戻ってきて、リリアに二枚の切符を手渡した。 「ありがとうございます」  そう言ってリリアは料金を支払い、ノアに一枚を握らせ、ホームへと向かった。  やがて、向こうから二つの明かりがやってくる。ノアはそれを不思議そうに見つめ、黄色い線をはみ出しそうになる。それをリリアが注意して引きとめる。  止まった新幹線の扉が開き、乗り込む。リリアはノアの手を引いて向かい合わせになっている席に座らせた。  席に腰掛けて、リリアは一息ついてこう思った。長い旅になりそうだ、と。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加