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列車は都心をぬけると、すぐにトンネルへ入った。トンネルの中は何も見えるものが無いので、リリアは退屈そうに手いじりをしたり、窓に頬杖をついたりしていた。しかし、トンネルをぬけると、彼女はその景色に目を輝かせた。
「うわ……すごい」
見れば窓の外には一面の菜の花畑。遠くまで広がる黄色の絨毯に、リリアは目を見張った。
その景色を見せたくなって、ノアのほうへ声をかけた。
「見てよ、ノア!」
しかし反応が無い。不思議に思ってノアの方を向くと、さっき起きたばかりだというのにぐっすりと寝入ってしまっていた。
「もう、ノア? 起きてよ、起きてってば」
リリアはノアを揺すぶるが、一向に起きる気配は無かった。そうしているうちに菜の花畑は姿を消し、再び長いトンネルへ入ってしまった。
それに気づかずに、リリアはノアの頬をつねったり、擽ったり、呼びかけたりを繰り返したが、いかなる手段をとっても彼は微動だにしなかった。
不審に思ったリリアは、ノアの顔を覗き込んだ。
そこで、彼女は硬直した。そして後ろに飛び退いた。寝息が感じ取れなかったのだ。
「起きて! ノア、ねえ起きてよ!」
リリアは最悪の事態を考えながら、必死に呼びかけた。周りにいる少数の客がちらりと目をやってくるが、そんなことには気づかない。
恐ろしくなって、リリアは声をかけるのをやめて、ノアをただじっと見つめていた。
そんな恐怖の時間が、十数分ほど続いた。彼女にとってはとてつもなく長い時間だっただろう。それは突然だった。ノアは小さくうなって寝返りを打ったのだ。
途端に全身の力がぬけて座席に座り込むと、疲れのあまりそのまま眠り込んでしまった。
その後、ノアが目を覚ました頃には、駅に着き、車内は二人だけになった。
「……リア、リリア起きて。 起きてよ」
ノアの声が聞こえ、リリアはゆっくりまぶたを開けた。そこには、眉を下げていかにも心配そうな彼の顔があった。彼はほっと安堵した顔になり、
「よかった。 ずっと起きないから心配した。」
と言って、席を立った。
そう言われて、リリアは不思議な感覚に包まれたが、そのまま二人は下車した。
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