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いくら走っても、いくら苦しんでも、事実という絶望を一瞬たりとも忘れることができず、涙すらもう流れることは無くなった。
声も涙も無い泣き声をあげる。
一瞬、思い出す。
乱れる頭の回廊の中心にある事実は外に出すことはできない。ならば内側に閉じ込めるしかない。
彼は自分の中からなにかを探した。そこに浮かんだ言葉はろくに読まずに続行する。
『この機能はまだ未完成です。続行しますか?』
彼はその後も走り続けた。体中の体力を使い果たし、余力が尽きて、全神経が機能しなくなるまで。
無理やり続行した何かが、着実に、ただし不完全に鍵をかけていく。
何かが、蝕まれるような感覚。それが今の彼にとっての唯一の救いの感覚だった。
やがて、かすかな人の声が聞こえてくる。そこは何処なのだろう。
そう思ったところで、ふと全てが途切れる。
彼は全てを閉じ込めた。
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