1章

2/31
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
「はあ、随分遅くなっちゃったなあ……」  荷物をカゴいっぱいに入れた自転車を押し、暗い空を見てリリアはつぶやいた。  今日は新しくできたデパートへと、遠出をしてしまった。袋にははちきれんばかりに品物が詰め込まれている。 「早く帰らないと、警官に注意されちゃう」  そう言うと、リリアは道路沿いの道を外れ、住宅地の奥へと向かった。この先にある公園を横切ると近道なのだ。  公園の中に足を踏み入れ、ふと前方の暗闇を凝視した。何かいつもと違う景色に感じた。 「誰か……いる?」  目を凝らすと、薄暗い電柱から離れたベンチに、小さな人影が見える。ゆっくりと近づきながらその様子を確認する。大きさから察するに、中等生ぐらいだろうか。こんな夜遅くに一体、とリリアは思いながら自転車を引く。  姿がはっきり確認できる距離まで来て、リリアは目を見開いた。  ベンチにいたのは少年だった。それも、崩れ落ちるような姿勢でぐっすりと。  ただ、驚いたのは若さではない、容姿だった。  なんだか奇抜な服装である。近未来的とでもいえばいいのだろうか、奇妙な模様のように線や円が描かれている。  そして何よりも、その髪だった。青いのだ。まるで南国を想像させるような青だった。闇の中でもはっきりと分かる鮮やかな色彩。  美しい。  リリアはそう思った。  こんなに美しいのなら、話題になるはずだ。いや、その前に地毛が青い人間がいるなど、聞いたことも無い。  染めたのではとも思ったが、違う。そうとは思えない自然な色だった。  じっと見ていると、ふと少年が目を開いた。 「えっ?」  その声が驚きではなく疑問だったのは、その目の色がまた不思議で、リリアの心を大きく揺さぶったからであった。  それも青だった。  しかも髪とは対照的な、深海を思わせる青。今にも闇に溶けてしまいそうなのに、しっかりと瞳が分かるはっきりとした色彩。  そんじょ其処等で見るようなものとは大きく違っていた。リリアはその不思議な少年の容姿に魅入られてしまっていた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!