1章

3/31

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
「君、其処の君。 おい、聞こえるか」 「え?」  ふと我に返ると、横から警官がいぶかしげな目をしているのが目に入った。 「あ、え、いや、えーと……」  何といったらいいかわからず、リリアはあせった挙句 「その、弟が疲れたとか何とか……失礼しました!」 とだけいって、その少年と自転車を抱きかかえて一目散に家へと向かった。これを一般的に拉致という。弟という名目でその場をしのいだが、もし彼が「違います」なんて一言でも発していたらリリアは現行犯になっていたかも知れない。  風のようにリリアが去った後には、空のベンチと呆然とした警官だけが残されていた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加