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ふと目を覚ますと、そこは自室の床の上だった。目の前にはベッド、横には自転車。カゴから出た袋からは数本のペットボトルが転がり出ていた。
窓の外を見ると、もう朝らしい。昨日の夜のことは、あまり覚えていない。自転車を抱えてから自分は一体何をしたのだろう。
リリアは額にかいていた汗をぬぐって立ち上がった。
「えっ?」
そう声を上げてから少しして、ああ、と息を漏らした。
自分のベッドの上に、青い少年が寝ていた。多分昨日、勢いで寝かせてしまったのだろう。そのあと自分は疲れ果てて床に倒れこんで寝てしまったということなのだろうか。
少し少年をボーっと見つめてから、はっとして少年を起こしにかかった。
早く警察に連れて行かなければ。――もう連れてきてしまってはいるが――誘拐になってしまう。
幾度か軽く頬を叩くと、少年はゆっくりと目を覚ました。リリアは息を呑んだ。その目の色を見ると、どうしても一瞬ドキッとしてしまう。何か惹かれるような、その不思議な色に。
リリアは緊張しながらも、
「あの……」
とそっと声をかけてみた。すると、少年はリリアの方へ向き、見つめてきた。益々緊張してしまう。
「えっと、何か、勝手に連れてきちゃってごめん……ね?」
リリアは少年が怒り出したり泣き出したりするのではないかと不安だったが、その少年は一つ頷いただけだった。平気ということなのだろうか。
すると、彼は口を開き、こう聞いてきた。
「君は誰……?」
その声に、リリアの緊張は最大に達した。何故かは分からない。ただ、真っ直ぐと、静かな声は。心を貫くようだった。
「え、あっその……リ、リ、リリア……です……」
リリアの声は後に行くにつれて小さくなっていった。
「……リ?」
少年は聞き取れなかったのか、リと聞き返して来た。
「う、ううん。 リリア、リリアよ」
リリアは首を振って答えなおした。
「リリア……」
少年はそう呟き、そっと頷いた。
とりあえず、これから警察に行かなくてはならない。そう思って、リリアは立ち上がり、自転車を起こして、少年に言った。
「あなたも帰るところがあるんでしょ? さ、行きましょう」
しかし、リリアが誘っても、少年は俯いて答えなかった。入り口まで行って振り向いてみても、少年はベッドの上に座ったまま。
「どうしたの?」
リリアが訊くと、少年はこういった。
「帰る……所? 無い……分からないよ」
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