1章

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 しばしの沈黙。 「……え?」  リリアは玄関から少年を見たまま、口をぽかんと開けていた。そのあと、 「あ、家の場所が分からないのかな。 じゃあ、名前は?」 と利いてみた。しかしそれにも少年は確信を持った表情を見せず、 「ノア……かな? うーん、そんな風に言われてた気もするけど、違う気もする……うーん」 と、うなり続けていた。  何故名前まで分からないのだろう。これは普通ではない。故に言う記憶喪失なのだろうか。リリアは衝撃を受け、困惑した。確証の無い名前を警察に言って、そんな人はいないとか、全く別の人物だったとしたらとんだ赤っ恥だ。  リリアは大きなため息をついて脱力した。家が見つかる気がしない。しかし、このまま放っておくわけにもいかない。どうしたものか。  リリアは仕方ないと自転車を玄関に止め、部屋の中へ戻る。そして、サイフやケイタイなど、外出する際に必要なものをポケットの中に入れた。そして、ノアと名乗る少年にこう言った。 「じゃあ、探しましょ。 風景を見たら何か分かるかもしれないよ」  それからリリアはノアの手を引いて、自転車を転がしながら外へ出た。  ノアはされるがままリリアについていった。
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