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「・・・俺、消えたんだな・・・」
両手を見つめて、呟いた。
「ヒュリオ・・・俺の気持ちがわかるか?突然荷物だけ残して恋人に消えら(死な)れた・・・」
『彼』、アーサーが自嘲の笑みを浮かべた、気配がした。
「アーサー・・・」
完全には理解できない。
けれど、なんとなく解った気がした。
きっと、何か言いたかった事でもあったんだろう。
そして、自分の去った方へ来てみたら、途中で・・・。
必死に走ってきて、着いたと思ったらそこには自分の着ていた服や靴、持っていた荷物だけしか残っていなかった・・・
そんな光景を考えると、胸が張り裂けそうな痛みに襲われる。
もう、そんな事をできる胸も、脳も、この世にはないのに。
ふ、と自分も自嘲する。
手を伸ばす。
しかし、やっぱりというべきか。
その手は、アーサーを抜けて空を切る。
抱きしめようと試みる。
いつものあの温かい感触は、掴めないままだった。
「やっぱり、駄目なのか・・・っ、アーサー・・・!!」
気づいて欲しい。
いつものように、少し照れたあの声音で、名前を呼んで欲しい。
思いを込めた叫びも、届く事はなかった。
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