3.アパート

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弥羅は5年も俺を探して、待ってくれてたんだ。 知らない土地に出て来てまで、俺の為に。 そんな事、そうそう出来る事じゃない。 俺は感謝してもしきれない気持ちだった。 「なぁ十也…」 「うん?」 弥羅が俺の首元に顔をうずめながら話す。 今思えば何だろう、この状況。 首元に弥羅の髪が当たって少しくすぐったい。 「このまま押し倒しちゃっていい?」 「は?おま…何言って…」 「あはは、冗談。 …って訳でもないんだけどさ、あながち。」 弥羅の身体が俺から離れる。 俺は呆然としながらその様子を眺めていた。 「…俺、男だぞ?」 「そうだよ?」 「…お前も、男だぞ?」 「当然だろ」 「………」 ん?あれ? 弥羅ってこんな奴だったっけ?そっち系?ってかどっち系…? 確か昔は彼女とかいた気がしたんだけど…。 …悪い冗談か何かだろう、きっと。 深い探索はやめよう。 「つーか…ここでのんびりしてる訳にもいかねえよな…。」 弥羅がベッドから立ち上がると外を覗く。 「…きっと追手は街中を探し回ってる。」 「出ても危ねえけど居座ってても危ねえってか。」 「本当に巻き込んでゴメン、弥羅…。」 「お前もしつこいなー。いい加減うぜえぞー。」 「だって…」 弥羅は笑ってるけど…これは笑い事じゃない。 下手したら死ぬんだ。 俺を助けたあの研究員みたいに…。 「とりあえず、帽子被っとけ。」 「わっ」 投げられたものを掴む。 紫色のキャップだった。 「早くここから離れるぞ。」 「でも…何処に向かうんだ?」 「俺に考えがある。」 弥羅はここに5年も住んでるんだ。 きっとここらの地理にも詳しい。 全く土地勘のない俺よりは断然頼りになる。 「分かった。」 俺たちは1度顔を見合わせると、玄関を飛び出した。
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