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「あけましておめでとうございます」
金井が由香のほうを向いて一礼する。
「お、おめでとうございます」
由香は目を泳がせながら、たどたどしく答えた。
少し恥ずかしい。再び頬が熱くなってくるのを感じる。
「ふふ、今年もよろしくね」
「……はい」
「みかん、食べます?」
「え? うん、ほしい」
由香の返事に、金井はまた優しい笑顔を落とし立ち上がった。
小さなテレビと、炬燵しかない部屋、けれどとても温かい。自然と窓のほうに目をやると、夜空と同化した電線と隣の家の壁。
外は、寒いのだろうなと感じた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
金井が由香にみかんを手渡し、由香はそれを受け取り、皮を剥き始める。
「金井君……」
「ん?」
「私、今年は変われるかな? 」
金井は何も言わず少し笑っただけだ。みかんの皮の白い部分を丁寧に剥いている。
「去年はみんなに、特に霞には、すごくひどいことしちゃったから。それがずっと心に引っかかってる」
由香は皮を剥いたみかんを食べずに、両手でそれを持ったまま金井の返事を待つ。
少し間が空いて、みかんをゴクリと飲み込んだ後金井が口を開いた。
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