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「うっ」
いきなり目の前が暗くなって膝をつきそうになった。
うぅ、いくら遅刻しそうでも朝ごはん抜いてきたのは間違いだったかな。
あ、どうも。僕、春原杏弥(すのはらきょうや)っていいます。
身長は151cmのチビで、残念なことに女顔です。
そのせいで初対面の人には女の子にしか
見られないのがコンプレックスです。
だって、クラスの女子には可愛い可愛いってからかわれるし、一回男に告白されちゃうし、いいこと何もないよホントに。
え、急にどうしたって言われても。
なんか自己紹介しなきゃいけない気がしたんだ。
「おいおい、顔色悪いけど大丈夫なのか?」
体育のランニングの途中、急によろめいた俺を心配してくれるこいつは、俺の唯一無二の親友、武田信一郎だ。
俺と違って、背が高くて強い癖毛。
勉強、運動なんでもこなす優男。
女の子にモテるくせに何故かなかなか彼女を作ろうとしないのがこいつの謎。
ちなみに、苗字が「武田」だからと父親に名前を「信玄」にされかけたそうだが、母親の強い反対を受けてやむなくこの名前になった、とかいう話を前に聞かされたことがある。
ものすごくどうでもいい。
見ての通り、僕を気遣ってくれる優しいやつなんだけど、僕が女顔だからかしょっちゅうお尻や無い胸を触ってくるのはやめてほしい。
一部の腐った方たちに僕たちキラキラした瞳で見られてるんだからね!
僕だって誤解するよまったく。
と、閑話休題。
「ああ、今日朝ごはん食べてないんだよね」
「バカだろ、そんなんで真夏の体育の授業なんて受けるもんじゃねえわ」
顔をしかめる信一郎を見て僕は作り笑いを浮かべる。
が 、そろそろ限界かもしれない。
「だよね。僕やっぱ休ん―」
言いかけたその先は、僕の意識と一緒に暗闇の中へ失われてしまった。
ふと、薄れゆく意識のなかで思ったのは『ああ、死ぬってこういう感覚なのかな』というありきたりなことだった。
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