2683人が本棚に入れています
本棚に追加
/947ページ
会計後、急いでコンビニを出た私は、キョロキョロと左右を見回した。
あの男の人らしき後ろ姿は、薄暗い外灯の下を通り過ぎ、駅に向かってスタスタと歩いているところだった。
薄暗い夜道でも分かってしまう程、背筋がピンと伸びていて、とにかく姿勢がいい。
私は、まるで宝物でも見つけたかのように、彼の背中を目掛けて走り出した。
「あ……えっと……あのっ……」
ようやく追い付いて声を掛けると、男の人は立ち止まってパッと振り向いた。
さっきと同じ、鋭い目が私をジロッと見る。
思わず、腰が引けてしまった。
「あ…えっと……さっき、ありがとうございましたっ!」
私は膝の所まで、頭を深く下げた。
「………………」
男の人は何も答えない。
あれ……なんか私、まずい事……
恐る恐る顔を上げると、その人は腕組みをしながら右手を顎に当て、考え込むようなポーズで私をまじまじと見ていた。
「あの……何か…?」
「いや、あんた、さっきレジですみませんって小さく言ったじゃん?
悪くないのに謝る心境って、俺には理解不能だから」
「はあ……」
気の抜けた声で返事をしてしまった。
なんか、怖い人かも……
「まあ、別にどうでもいいけど。それじゃ」
「あ、ちょっとまっ……」
私は慌てて男の人を引き止めた。
「何?」
男の人は面倒くさそうに聞いた。
「いや……あの…これ……」
私は手に持っていたコンビニのレジ袋からフルーツヨーグルトを取り出し、彼に手渡した。
男の人はキョトンと目を丸くしていた。
「えっと……さっきのお礼ですっ!
こんなので、申し訳ないですけど………」
男の人はヨーグルトを受け取る訳でもなく、ただそれをじっと見ていた。
もしかして……非常に迷惑だった…かも……
「あ……やっぱ、いらないですよねっ………本当すみませんっ……」
ヨーグルトを差し出した手を引っ込めようとした時
突然強い力が私の手首を掴み、塀の壁に体を押さえ付けられた。
早過ぎて、何が起きているのか分からなくて
「……お礼だったら、別の物がいいんだけど」
この状況と、その言葉の意味を理解するまで数秒掛かってしまった………
最初のコメントを投稿しよう!