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「おはようございますっ」
電車を降りて駅から全力疾走して来たけれど、バイト先に着いたのは、開始時刻10分前だった。
従業員用入口から入り、タイムカードを打刻して事務所のドアを開けると、社員スタッフの高野さんが新聞を読んでいた。
高野さんは3つ年上の男性スタッフで、このカフェでは店長の次に権力を持っている。
2年前、初めてここに来た私に一から仕事を教えてくれたのはこの人だった。
怒ると怖いけど、面倒見が良くて、頼りになるお兄ちゃんみたいな人だ。
怒ると本当に怖いけど……
「あれ、真山がギリギリに来るなんて珍しいじゃん。いつもお前、来んの結構早いのに」
高野さんは新聞に視線を向けたままそう言った。
「すいませんっ!すぐ着替えるんでっ!」
バッグをロッカーに放って、ハンガーに掛けてある制服を取り出した。
「無いとは思うけど、朝帰りでもしたか?」
「え?」
制服を抱えてカーテンルームに行こうとする私を、高野さんはニヤッとしながら見た。
「ああ、ごめん。お前に限ってそれは無いな。愚問だったわ。ほんとごめんね」
「わ、分かってるなら聞かないでくださいよ!」
「つーか、お前何顔赤くしてんの?」
「別に赤くないですっ!」
カーテンを閉めて、制服を床に置いた後、私は壁に寄り掛かってため息を一つついた。
分かってるよ……
恋愛なんて、私にはきっと一生縁無いもん………
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